関西最後の一等地「うめきた」に公園 『ほんまもんのみどり』になるか

梅田貨物駅跡地「うめきた2期区域」に9月にオープンした、大深町公園
再開発が進む「関西最後の一等地」とも呼ばれる梅田のJR大阪駅北側の「うめきた」エリア。この街づくりの核となる、「うめきた2期区域」の公園の南エリアが2024年9月にオープンした。屋上ではなく、地上に広がるこの緑の空間が生まれた経緯を踏まえて、更にこれからのネイチャーポジティブが要請される時代における都市の緑への期待を述べたい。
10月、再開発の一翼を担うUR都市機構の関係者らに現地を案内してもらった。芝生広場やじゃぶじゃぶ池があり、木陰の散策路にはさりげないアートも点在。人々がくつろぐ姿も見られた。冬場でも緑の冬芝が生えそろっていて、柔らかい感触が心地よい。
全国の旧国鉄貨物用地の再開発の中で最も遅れたのが梅田貨物駅だ。JR、国、自治体、各種団体、経済界、有識者らの確執の中で、地上の緑は防災公園として約4.5㌶が確保された。民間開発エリアでも、先行開発区域グランフロント大阪の約7㌶も含めて、高層ビル基壇などに立派な緑は確保されてはいる。だが、駅に直結した、この地上の緑の価値はさらに大きい。
旧国鉄のヤード集結型輸送が全廃されたのが1984年。国鉄の分割民営化が1987年で、累積赤字を返済するための貨物用地売却と再開発が全国各地で進んだ。オフィスや商業ビルの需要が多い東京の場合、貨物ターミナル駅の汐留では貨物駅廃止に伴って、超高層ビル群が誕生したが、まとまった緑は確保されていない。埼玉の大宮操車場の貨物施設も売却され、アリーナや高層ビル群が生まれた。そのさいたま新都心駅前では、さいたまスーパーアリーナへ続く2階人工地盤上にケヤキが220本植栽された「けやきひろば」約1㌶が唯一のまとまった緑空間となっている。
一方、京都駅の西に徒歩15分程度の梅小路操車場跡地、約12㌶は、京都市が買い取って、そっくり公園緑地となった。既にバブル崩壊を経て、オフィスや商業ビル需要が見込めない事情はあったにせよ、平安建都1200年記念事業の一環として、環境と伝統文化を尊重した持続可能な街づくりへの京都市の100年に一度の英断だった。当初の周辺は倉庫群などヤード跡地感がぬぐえなかったが、公園施設として水族館、鉄道博物館が民間資本で整備され、JR新駅が開業するにつれ、一帯の賑わいに貢献。四半世紀を経て、100室規模のホテルが4棟、公園に隣接して開業し、まちづくり協議会活動も活発である。
このコアとなる公園内の伝統庭園「朱雀の庭」とビオトープ「いのちの森」は、地域の生物多様性を育む自然共生サイトに認定され、OECMの国際データベースに登録が予定されている。NbS(自然を活用した解決策)で持続可能なまちづくりにつなげる好例だ。
さて、うめきたでは「国際コンセプトコンペ」(2002)をもとに「大阪駅北地区まちづくり基本計画」(2004)が策定され、まず東側のグランフロント大阪が民間主導で開発された。大阪駅北約24㌶のうち残るうめきた2期区域の約16㌶については、2段階の民間事業者の公募で絞り込む手順がとられた。建築家の安藤忠雄氏らが選んだ、総合的に優秀な提案10者、プランニングやデザインの優秀な提案10者をもとに、2015年に「まちづくりの方針」が策定された。地上のまとまった「みどり」概ね4㌶、建築物と一体化し地上と連続する緑とあわせて、概ね8㌶のみどりを確保することがこの時、決まったのである。
この方針の意義は、本来、緑の環境の受益者でもある事業者が一定の緑化をして緑の管理に責任を持つスキームがあることと、なんとかまとまった公園が確保されたことだろう。関西経済同友会の活動も緑の確保を後押ししたと思う。「道路を除く約9㌶について、可能な限りのすべてを、屋上緑化ではない『ほんまもんのみどり』」にすべきだ」と一貫して主張し、“City in a Garden”政策で都市経営に成功しているシンガポールも念頭に、有識者を招いた7回にわたるセミナー等で機運を高めたのである。
筆者は第1次安倍内閣の「21世紀環境立国戦略」(2007)の審議会の議論に参加したとき、阪急阪神ホールディングスの役員も、うめきた2期区域は高層ビル建設で床面積を増やすのではなく、緑の公園として周辺環境に貢献をと発言し、当時の嘉田由紀子滋賀県知事がエールを送ったことを覚えている。
関西最後の一等地は京都の梅小路のように全面的な公園化には至らなかったわけだが、タウンマネジメントの取り組みと緑の管理費を民間が支弁する仕組みが機能しているのは意義深い。ともかく、空中回廊が南北をつなぐ、おしゃれな公園が出現した。

グランフロント大阪タワーA17階より公園エリアを望む。左手がオープンした南エリア、右手の北エリアに「うめきたの森」を整備中。この向こう右手に自然共生サイトに認定された「新梅田シティ 新・里山」(積水ハウス株式会社)が見える
だがこれは本当に『ほんまもんのみどり』だろうか。
梅田の地名は田んぼを埋めたことに由来する。梅原徹(2000)によると大阪府から絶滅した植物84種のうち、生息環境が最も多いのは田んぼを含む湿地の47種、ついで草地26種で、森林の9種より圧倒的に多い。いや、それ以上に都市で最も深刻な絶滅危惧種は、野山や小川で生きものと遊ぶ子供ではないだろうか。今回、初めて50年間という長期の維持管理を担う民間組織もできた。とすれば、人工地盤上も含めて「2030年ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失傾向に歯止めをかけて上昇に転じる)」はもちろん、2050年の自然共生社会の都市を目指して、本来の生きものを育む『ほんまもんのみどり』の再生のマネジメントが可能になるだろう。まずは2028年完成予定の公園北エリアの「うめきたの森」に注目したい。
(森本幸裕 京都大学名誉教授、(公財)京都市都市緑化協会理事長)