拡大する世界の森林火災
欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」の報告によると、今年の6月から8月の北半球の気温は昨年の記録を更新し、観測開始以来最も暑い夏になっています。そして2024年は23年を抜いて地球の過去12万5千年間で最も暑い年になる可能性が高まっています。このような気候変動により、世界各地で熱波の頻度と厳しさは増し、干ばつや山火事、暴風雨や洪水といった異常気象が頻発しています。
森林火災と気候変動の悪循環
気候変動は、森林火災を増加させる大きな要因のひとつです。異常な熱波は、150年前と比べて現在すでに5倍も発生しており、地球が温暖化し続けるにつれて、さらに頻繁に発生するようになると予想されています。気温上昇によって土壌や植生は乾燥し、森林火災がより大規模かつ頻発する環境がつくられます。
森林が燃えると、木の幹、枝、葉や、土壌中に蓄えられた炭素が放出されます。森林火災の規模が大きくなり、発生頻度が高くなると、より多くの炭素が放出され、気候変動をさらに悪化させ、「森林火災と気候変動の悪循環(火災と気候の負のフィードバックループ) 」が進行し、さらに多くの火災を引き起こすことになります。気候が原因で森林火災が発生する地域が拡大すれば、より多くの人々が影響を受け、世界経済にも悪影響が及ぶことになります。
拡大する世界の森林火災
森林火災に関する最新のデータによると、森林火災の範囲が拡大し、20年前と比べて少なくとも2倍の面積の樹木が燃えています。
メリーランド大学の研究者が最近発表した2001年から23年までのデータによると、森林火災によって焼失した面積は、この期間に年間約5.4%増加しています。現在、森林火災によって失われる森林の面積は、01年と比べると年間600万㌶近く増えており、クロアチアの面積に相当します。
記録的な森林火災は常態化し、20年、21年、23年は、それぞれ世界の森林火災のワースト4位、3位、1位です。
23年には1200万㌶近くが焼失し、これまでの記録を約24%上回りました。カナダで発生した大規模な森林火災は、昨年の火災による樹木被覆喪失の約3分の2(65%)を占め、世界全体の樹木被覆喪失の4分の1以上(27%)を占めています。
記録的なカナダでの森林火災
カナダでは2023年に記録的な山火事が発生し、約780万㌶の森林が焼失しました。これは01年から22年までの同国の年間平均の約6倍に相当します。森林が燃えることで約30億㌧の二酸化炭素が大気中に放出されました。これは22年にインド(世界第3位の排出国)の化石燃料使用により発生した二酸化炭素の量を上回ります。これらの極端な山火事は、何十億ドルもの物的損害をもたらし、何千人もの人々が家を追われ、ヨーロッパや中国にまで大気汚染をもたらしました。山火事の主な原因は、平年を上回る気温と干ばつでした。
カナダの森林を含む北方林は世界全体の陸上炭素の30%~40%を蓄積し、地球上で最大の炭素貯蔵庫のひとつです。北方林の炭素の大部分は、永久凍土を含む土壌の地下に蓄積されており、歴史的には自然に発生する頻度が低く、深刻度の低い火災から守られてきました。しかし、気候や火災活動の変化によって永久凍土が融解し、土壌の炭素が燃焼の影響を受けやすくなっています。森林火災の拡大による森林動態の変化は、北方林を炭素吸収源(排出する炭素よりも吸収する炭素の方が多い地域)から炭素排出源に変えてしまう可能性が指摘されています。
森林火災を減らすには?
森林火災を増加させている原因は複雑で、地域によって異なりますが、気候変動が北方林における火災の頻度と激しさの増加に重要な役割を果たしていることは明らかです。そのため、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、火災と気候のフィードバックループを断ち切ることなしに、森林火災を過去のレベルに戻すことはできません。気候変動がもたらす最悪の影響を緩和することはまだ可能ですが、そのためにはあらゆる社会や経済のシステムの迅速かつ大幅な変革が必要です。
気候変動に加えて、森林やその周辺での人間活動により、森林は山火事による影響を受けやすくなり、特に熱帯地方やその他の地域で火災による樹木被覆の減少をより大きくする一因となっています。森林減少や森林劣化を食い止め、森林の回復力を向上させることが、将来の火災を防ぐ鍵です。火災が発生しやすい地域の森林管理戦略に山火事リスクの軽減を組み込み、森林の炭素を保護すると同時に、雇用を創出し、農村コミュニティを支援することが重要です。
(本稿で引用したデータは、世界資源研究所の下記の論文に依拠しています。
“The Latest Data Confirms: Forest Fires Are Getting Worse”August 13, 2024
(松下 和夫 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)