時評

ガーデンツーリズムと「ガーデンネックレス横浜」

山下公園のバラと氷川丸=いずれも横浜市、筆者撮影

 風薫る5月、美しい5月。読者の皆さんも美しい5月を満喫されたことと拝察します。

 新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後、海外からの観光客数も大幅に戻り、各地の観光地はにぎわっています。一部にはオーバーツーリズムの弊害(観光公害)も出ています。それに対処するために「持続可能な観光」(サステイナブルツーリズム)の推進が望まれることはすでに本欄(2023年9月30日配信)でも述べた通りです。

 持続可能な観光の一類型として私が注目しているのは「ガーデンツーリズム」です。

 「ガーデンツーリズム」とはどのようなものでしょうか。国土交通省によると、歴史的に価値のある庭園や景観の良い公園などを巡る観光形態の一つです。日本には、日本庭園や花の公園など、地域ならではの特徴を持つ多様な庭園が存在し、観光客に人気を博していますが、その魅力を十分に伝え切れていない「隠れた庭園・花の名園」も数多くあります。欧米ではガーデンツーリズムがすでに広く普及しており、英国では各地の庭園を紹介するガイドブックが発行され、政府も観光プロモーションを推進しているとのことです。

 このような背景から、国交省は2019年度に地域の活性化と庭園文化の普及を図るため各地域の複数の庭園や公園が連携し、魅力的な体験や交流を創出する取り組みをガーデンツーリズムとして、その計画を登録し、支援する制度を創設しました。24年4月現在、全国で17の計画が登録されています。

 近年、こうした伝統的な日本庭園や花の公園などを巡る観光スタイル(ガーデンツーリズム)が、首都圏を中心としてじわりと浸透しています。

 たとえば、埼玉県三芳町が舞台の「みよし野ガーデン里山探訪」、千葉県松戸市の「戸定が丘歴史公園」と隣接する千葉大学園芸学部の洋風庭園、東京都の「むさしの・ガーデン紀行」(井の頭恩賜公園〈武蔵野市、三鷹市〉や殿ヶ谷戸庭園〈国分寺市〉など22の施設で構成)、横浜市の「ガーデンネックレス」などがあげられます。

 なかでも、現在横浜市民である筆者のお気に入りは「ガーデンネックレス横浜」です。これは、横浜市が毎年3~6月に市内の公園や庭園などを花で彩るイベントで、2017年から続いています。

山下公園にあるガーデンネックレスの看板

 横浜市では、潤いや安らぎを感じられるこの地を次世代に引き継ぎ、魅力ある都市へと発展させていく取り組みを「ガーデンシティ横浜」として位置づけており、「ガーデンネックレス横浜」は「ガーデンシティ横浜」を推進するリーディングプロジェクトとなっています。花や緑による美しい街並みや公園、自然豊かな里山など、横浜ならではの魅力を発信し、まちの活性化や賑わいの創出につなげ、花や緑に関する取り組みを全市的に進め、花や緑にあふれる環境先進都市横浜の実現を、市は目指しています。

ガーデンネックレスのマスコットキャラクター、ガーデンベア

 筆者の定番は、みなとみらい地区から、横浜赤レンガ倉庫、象の鼻パーク、山下公園、港の見える丘公園のバラ園(ローズガーデン)、山手西洋館、アメリカ山公園、と季節の花々を愛でながらの散策です。サクラ、チューリップ、そして横浜市の花「バラ」と、季節をリレーするように見ごろの花が移り変わり、港ヨコハマの景観と共に、美しい花々に彩られた街歩きが堪能できます。

アメリカ山公園のバラと横浜ベイブリッジ

 2027年に花や緑・環境をテーマに国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」が、横浜市上瀬谷地区を舞台として開催されます。この地区は、横浜市の北西部(旭区・瀬谷区)にある面積約242haの平坦な土地で、旧上瀬谷通信施設があり、長年米軍に提供していたものが、2015年6月に返還されたものです。

山下公園のバラとマリーンタワー

 国際園芸博覧会は、園芸文化の普及や花と緑のあふれる暮らし、地域・経済の創造や社会的な課題解決への貢献を目的に、国際園芸家協会(AIPH)の認定を受けて開催される国際的な博覧会です。この博覧会には、A1、B、C、Dの4つの区分があり、2027年に横浜市にて開催される博覧会はA1です。A1の国際園芸博覧会は、日本では、1990年に大阪で、アジアで初めてのA1の国際園芸博覧会として開催された「国際花と緑の博覧会(花の万博)」が唯一の実績です。「ガーデンネックレス横浜」などの取り組みが「GREEN×EXPO 2027」の成功につながることを期待したいものです。
 松下 和夫 (京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関シニアフェロー)

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