時評

法律と基準だけでは進まない雨水対応 TNFDを睨んだ認証制度を

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雨の一時貯留と浸透に配慮した民間企業の雨庭。京都市の生物多様性プランに基づく「京の生きもの・文化協働再生プロジェクト認定制度」が、導入の後押しをした=筆者撮影

 

 温暖化でますます必要なのに、日本の雨水対応の歩みは遅い。
 先日出席した第4回雨水基準制度シンポジウム「雨水活用の現状と基準や制度を考える」(5月、法政大学等主催、国土交通省後援)では、第1回(2020年)から3年たっても先進ドイツとの差が開く一方の日本の現状に落胆した。だが、自然資本を生かしたネイチャーポジティブ経済への最近の動きには可能性を見た。
 「雨水」と書いて「うすい」と読むか、「あまみず」か。これには天と地の違いがある。「うすい」なら下水なので厄介者。これを「あまみず」と読んで、活用を図る「雨水の利用の推進に関する法律」が「水循環基本法」とともに成立したのは2014年にさかのぼる。日本建築学会もこれに対応し、「雨水活用建築ガイドライン」(11年)を基に「雨水活用技術基準」(16年)をまとめた。
 これまで雨水の排水を下水道網に直結していたのを180度転換。雨は敷地に留めて「蓄雨」を図るのがポイントだ。
 ためた雨は非常時に役立つし、日常的にも利用できる。大雨の流出のピークを抑え、流出を遅らせ、洪水を防ぐ。下水道の負荷を低減することで河川の水質浄化に役立つ。動植物を育み、地下水の涵養(かん・よう)とヒートアイランド現象の緩和にも貢献する。これら、防災・利水・治水・環境の4種の側面からの「蓄雨」で、合計100㍉の降雨に対応できることを目標に掲げている。
 一方、アメリカでは既に1990年ごろに自然環境にできるだけ負荷をかけない開発、LID(低影響開発)の取り組みが始まり、世界に波及した。中でも雨水の一時貯留と浸透に配慮した植栽空間である「雨庭」や、「生態緑溝」という緑の排水路は、都市のグリーンインフラ(自然を生かした社会基盤)として、欧米各国の都市で導入が進んでいる。
 日本でも遅ればせながら、京都駅ビル緑水歩廊(12年)のビル型雨庭や、京都学園大学(現京都先端科学大学)京都太秦キャンパスの雨庭(15年)が整備され、「環境・循環型社会・生物多様性白書(平成29年版)」でも紹介された。京都市は街路型雨庭の導入を始めた(18年)。
 でも、まだほんの一握りの事例に留まる。まちづくりに期待される効果を十分発揮するには、「地域雨庭」が必要だ。つまり大多数を占める蓄雨100㍉(100㍉の降雨をためられる能力)を満たさない既存不適格の建築の解消と、地域の取り組みの推進が必要だ。有力なインセンティブ(動機付け)となる取り組みを二つ提案したい。

 ①敷地の浸透貯留性能に合わせた下水道課金制度改革
 ドイツでは自然地を不透水地に改変して雨水を流出させればコストがかかるので、必然的に雨水活用とその技術開発と雨水産業も発達した。逆に日本では雨水を下水道に直結すれば無料なのに利水を図れば下水道料金を請求されてしまう。この現状を放置してはならない。
 これは洪水常襲である福岡市の樋井川流域の上流で、自宅建築の際に本格的な蓄雨を自前で図り、治水にも多大に貢献しているにもかかわらず、課金されている専門家の嘆きでもある。

 ②生物多様性に配慮した「雨庭等の認証制度」の確立
 地域の生物多様性に配慮した雨庭や生態緑溝によって、事業地周辺の洪水リスクを減らすように対応したことを公的に認証する制度をつくるべきだ。認証を取れば自社の自然関連財務情報として開示できる。
 都市部を含む劣化地30%を自然再生するという、「昆明・モントリオール2030年目標」のひとつ(目標2)に資する。さらにオフセット制度(その場の対応でも残る影響を他の方法で相殺)と合わせると効果抜群だ。また、まもなく正式版がリリースされる、ビジネスの新たな国際標準であるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応の有力なツールとなる。既存不適格土地利用の事業者にとっても、地域の雨庭に貢献することがTNFDの要求するロケーション・アプローチ(地域の自然資本の課題対応)ともなる。
 遅れた日本の雨水対応だが、生物多様性主流化の外圧で一気に進むことを祈りたい。

 (京都大学名誉教授・公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長 森本幸裕)

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