時評

太政官布達150周年 公園で「ネイチャーポジティブ」を

 全国で都市公園が“賑わい施設化”しているようだ。新設されるコーヒーショップや売店。各種イベントにキッチンカー……。規制ばかりが目立っていた公園だが、公共事業を行政と民間のパートナーシップ(PPP)で進める制度の拡充が進んでいる。

 確かにストックの有効利用や賑わい創出は有意義だが、公園は空き地ではない。政府の30by30ロードマップ(2022年)にもある、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を踏まえれば、賑わいで緑の質と量が増える仕組みが必要だ。

 日本では明治時代に入って外国人居留地につくられた公園はあったが、都市公園制度は1873(明治6)年の太政官布達第16号に始まる。今年はこの150周年の節目にあたる。この布達は、「古来ノ勝区名人ノ旧跡等是迄群集遊観ノ場所」であった社寺領地などを近代的な公園として担保しようとするものだ。

 布達に従って、直ちに東京では上野、浅草など5公園が設置された。京都でも86(明治19)年と出遅れたが、花見や料亭、温泉宿で著名な歓楽地でもあった八坂に円山公園が設置された。現在の利活用促進は、さながらこの“原点回帰”のようだ。

 でも、これはロンドンに始まる都市公園とは正反対の発想である。もともと過密都市の環境保全に貢献する緑の空間を計画的に配置するのが、西欧の公園制度だ。

 都市づくりの中で計画的に公園を整備していく――。この西欧流の考え方が始まったのは88(明治21)年の東京市区改正条例以降だ。だが、その後の都市化の奔流は田畑や山林の自然をのみ込んだが、公園用地の確保はままならず、欧米主要都市と比べて1人当たり公園面積は大きく見劣りしてきた歴史はいまだ解消されていない。

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京都市の梅小路公園「朱雀の庭」。左手奥が隣接地に最近開業したホテル、右手奥にビオトープ「いのちの森」がある=筆者撮影

 

 もちろん、公園の自然をコアに長期的視点からの町づくりに取り組む例はある。旧国鉄のヤード系貨物輸送全廃に伴って不要となった都心の空き地、ヤード跡地を京都市が買収して、梅小路公園(京都市下京区)を1995年に開園。現代的に言うと、ネイチャーポジティブでネイチャーベースソリューション(NbS:自然の力を活用した解決策)だ。公園開設当初は役目を終えた倉庫群が目立っていたが、その後、水族館、鉄道博物館と本格的な民間による公園施設整備があり、新駅の開業、いくつかのPPP事業と町づくり協議会も機能して、着実な町づくりを展開している。

 今年2月には、世界銀行の東京開発ラーニングセンター(TDLC)が、世界銀行東京防災ハブと共催で実施した「気候変動に強靭(きょうじん)なNbS」に関する世界の都市開発実務者向け対話型研修でも防災グリーンインフラ(緑の社会基盤)としての梅小路公園が取り上げられた。

 この公園には素晴らしい庭園とビオトープが継承されている。日本造園学会賞に輝く平成の日本庭園「朱雀の庭」と、門川大作・京都市長が生物多様性条約COP10の際の国際自治体会議で世界に向けて発信したビオトープ「いのちの森」だ。そして、ここ数年のうちに公園に隣接して100室規模のホテルが四つ開業に至ったのは、質の高い緑を担保することが周辺地域の資産価値を高めたネイチャーポジティブ経済の成果に他ならないと思う。

 (京都大学名誉教授・公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長 森本幸裕)

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