時評

G7広島サミットを機に、再生可能エネルギーのさらなる拡大策を

 来たる5月には日本が議長国となり、広島で主要国首脳会議(G7サミット)が開催される。G7サミットでは、気候危機とエネルギー危機が同時に進む世界で、G7加盟国がこの危機に立ち向かうための戦略構築が求められる。

 

昨年のG7サミットでは何が合意されたか

 (表1)は昨年のドイツでのG7首脳宣言の気候・エネルギー関連の主要なポイントを示したものだ。

 

(表1)ドイツG7首脳宣言の気候・エネルギー関連:主なポイント(筆者作成)

①    排出削減対策のない石炭火力発電所の廃止(期限は定めず:原案は2030年まで)

②    2035年までに電力部門の大部分(fully or predominantly)を脱炭素化

③    排出削減対策のない化石燃料への新規の国際的な直接支援を2022年末までに終了

④    2030年までに道路部門を高度に脱炭素化(原案は2030年までに電気自動車(EV)を50%にする)

⑤    パリ協定履行のために国際的な気候クラブを2022年末までに設立

⑥    国際エネルギー機関(IEA)と連携し、エネルギー価格高騰を抑制し、経済や社会への影響を抑制する措置を検討

⑦    ロシア産石油の上限価格の設定など様々なアプローチを検討

 

石炭火力発電所の廃止と2035年までに電力部門の大部分の脱炭素化

 合意の一つが、「排出削減対策のない石炭火力発電所の廃止」である。しかし(表2)が示すように、G7メンバー国で唯一、日本だけが石炭火力発電所の廃止時期を明示していない。

 

(表2)石炭火力発電所に関する主要国のポジション(各種資料より筆者作成、なお中国はG7加盟国ではない)

【日本】  2030年度の石炭火力の電源比率は19%を計画。国内に新規建設計画あり

【米国】  2035年までに電力部門の脱炭素化

【英国】  2024年までに廃止

【フランス】2022年までに廃止

【ドイツ】 理想的には2030年までに廃止(従来は2038年までに廃止)

【カナダ】 2030年までに廃止

【中国】  2021年9月に海外への輸出支援の停止を表明。国内に新規建設計画多数あり

 

 また、「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化」するとの合意に関する各国目標と21年の実績を示したものが、(表3)である。脱炭素社会の実現に向け、まず電力の脱炭素化を進めることに加え、ウクライナ侵略によって、化石燃料依存脱却の緊急性に関する認識の高まりからこの合意がされたのである。

 カナダ、英国、米国は35年時点での電力部門脱炭素化を目標にし、ドイツは35年に電力部門の再生可能エネルギー(再エネ)の100%転換を目標としている。イタリアは30年に再エネ70%を目標とし、フランスは原発を含め既に90%強を脱炭素化済み。日本だけが、35年脱炭素化を目標とせず、めども立っていない。

 

(表3)G7各国の電力部門脱炭素化目標と2021年実績(出典:気候変動イニシアティブ事務局、REは再エネのこと)

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脱炭素化の道筋を欠く政府のGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針

 日本政府が本年2月に閣議決定したGX基本方針には、35年までに日本の電力部門の全てまたは大部分を脱炭素化する道筋に関する具体的記述はない。30年までのCO₂大幅削減とG7が合意した35年の電源脱炭素化を日本で実現するためには、すでに実用段階にあり、日本でもコスト低下が進んでいる再エネ電源の導入の加速が望まれる。

 他のG7加盟国の再エネに関する目標や開発動向を参照してみると、ドイツは30年に80%、35年100%、イタリアは30年に70%という導入目標を掲げ、カナダは現時点で既に70%近くを供給している。英国では、洋上風力発電の開発が大規模に進む一方、現在11基稼働している原子炉のうち10基は28年までに廃止予定だ。唯一の新設原子炉の建設は予定より遅れている。

 米国では23年に新設原子炉2基の稼働が見込まれているが、これに続く新設の予定はなく、既存原発の老朽化と廃炉が続き、現在の原発による電力供給割合(20%程度)が増える見込みはない。フランス以外の5カ国では35年には再エネが電力の70~80%程度、国によってはそれ以上を供給することが見込まれている。

 一方、日本のGX基本方針は「再エネの主力電源化」を掲げているものの、再エネの導入目標は30年度36‐38%という目標のままで、35年への言及はない。

 日本が気候危機とエネルギー危機に立ち向かうための正攻法は、省エネとともに、再エネを拡大し35年の電力供給をG7の他の国々に伍(ご)するレベルまで引き上げることを目指し、その実現に必要な具体的政策・制度の導入、規制改革を早急に進めることである。

 

再エネの拡大のために

 再エネの拡大のためには、着床式および浮体式の洋上風力発電の開発加速、新築建築物への太陽光発電の設置義務化など、導入加速に向けた実効性ある施策の導入と規制改革が求められる。さらに再エネの変動性への調整力を高めるため送電線網整備、蓄電池の開発と普及、電気自動車(EV)の普及加速と給電設備普及整備が必要だ。

 普及の頭打ちが懸念されている太陽光発電については、設置余地のある屋根置き、耕作放棄地・休耕田、工場跡地、カーポートなどの活用、農業と共生するソーラーシェアリング(営農式太陽光発電)などの推進が必要だ。さらに、風力アセスメント期間の短縮、再エネのコストを増加させる制度(出力抑制、接続ルール、容量市場など)の見直しも急がれる。東京都や川崎市が導入予定の新築建築物への太陽光発電の設置義務化の条例も有効な手段だ。

 また、高騰する化石燃料から価格低下が進む再エネへの転換手段としてPPA(電力販売契約)の最大限の活用も望まれる。

 再エネの拡大に当たっては、コストや適地の確保、環境との共生などの課題がある。地域で再エネのポテンシャルを最大限に引き出し主力電源化していくためには、地域にメリットがある形で持続的に導入を拡大していく取り組み(地域版GX)の推進が望まれる。その際、地域主導で地域共生型の再エネ導入の視点を重視し、適切なゾーニングなどで再エネの地域社会での受容性を高めることが必要だ。

 気候危機への世界の取り組みの中で日本がより積極的に役割を果たすことが、日本産業の国際競争力の強化につながり、持続可能な発展が実現される。再エネ拡大と省エネの徹底はその中核である。G7広島サミットをそのための着実な一歩とすることを期待したい。

 (京都大学名誉教授・日本GNH学会会長・公益財団法人 地球環境戦略研究機関〈IGES〉シニアフェロー 松下和夫)

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