時評

もうひとつの30%――被災地自然再生を防災・減災と復興に活かす

 昨年の暮れ。国際目標となった「30by30」をマスコミ各社が一斉に報じた。国連生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)第2部で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目玉だ。世界の陸と海の30%以上を2030年までに保全区域とする。確かに世界目標としては画期的だが、劣化地の30%を再生する目標にも注目してほしい。

 なぜならすでにEUは20年に制定した生物多様性戦略に30by30を掲げている。日本も「30by30ロードマップ」を2021年度に定めて、保護地域拡充に加えて、OECM(民間などの取り組みによって保護地域以外の生物多様性保全に資する地域)の認定の取り組み(22年11月配信の同コーナー参照)を始めているが、これだけではゴールに到達できない。

 CBD-COP10で定めて今回も継承するゴールである50年の自然共生社会の実現に向けて、30年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させるために定めた今回の枠組みには、23の目標(緊急にとるべき行動)が掲げられた。そのうち、土地の広がりをベースとしたものは、三つある。「30by30」は目標3の「保全地の拡充」に掲げられた。注目すべきは劣化地の「30%」を「再生」するという、目標2。さらに目標1の土地の広がり全体の参加的、かつ統合的な生物多様性の「計画」や「管理」と統合的な行動が重要だ。いわゆる“ランドスケープ・アプローチ”である。保全区域以外の70%も含めて自然共生社会に向けた国土の計画・管理を目指す考え方だ。

 つまり保全地域指定を拡充して生物多様性のさらなる劣化は止められても、現状よりプラス(ネイチャー・ポジティブ)にできるとは限らない。IUCN(国際自然保護連合)の保護地域世界委員会(WCPA)メンバーのN.ダドリーは、雑誌『BIOCITY』92号に、OECMが生物多様性に貢献する三つのオプションを示している。

 ①すでに効果的な保全を行っているサイトを認定して、将来起こりうる劣化を防ぐ。②効果的な保全を行っているサイトでの「保全管理の改善」を促進して、生物多様性の純増を図る。③現在はOECMに認められないような「劣化した土地で、生物多様性を回復」させて、OECM認定を図っていく。この前2者は現在のOECMの枠組みでカバーされるが、③はそうでない。しかし③は保全地域の純増が図れる利点があって、今後OECMとしての適格性を判定する包括的なモニタリング・プロトコルを検討して、指標が目標レベルに達したら登録する流れを想定している。

 筆者が劣化地の自然再生に着目するのは特に災害復旧の局面だ。詳細は省くが、豊かな生物多様性の生態系は気候変動への「耐性」が高く、撹乱に対する「回復力」も大きく、自然撹乱が残していった多様な生物学的遺産(レガシー)は自然再生に重要な役割を果たす。生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)の観点からの自然再生地30%を含む土地利用見直しなど参加型のランドスケープ・アプローチの好機となる。

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北海道胆振東部地震による表層崩壊地の森林再生プロジェクトのひとつ、レガシー緑化試験地。大規模崩壊地【写真上】と小規模崩壊地【写真下】=北海道大学の森本淳子准教授、春口菜帆氏、山田夏希氏提供

 

 例えば大洪水被災地、熊本県の球磨盆地では、放棄水田となった「迫」という地形を活かした「緑の流域治水」の湿地再生を通してOECM登録を目指す復興の取り組みが始まっている。北海道胆振東部地震の大規模崩壊地でも、レガシー活用で参加型の森林再生も始まった。災害大国日本ならではのネイチャー・ポジティブに期待したい。

 (京都大学名誉教授・公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長 森本幸裕)

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