時評

SDGsの原点である「地球憲章」 

 SDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能な世界を実現するために、2015年に国連で採択された30年までの国際的な目標であり、私たちが望む世界の姿を示す未来へのビジョンである。現在の社会が直面する複雑に絡み合った多くの課題を解決し、持続可能で平和な世界を構築していくためにつくられた。

 環境、経済、社会面において達成していくべき17の目標と、その目標を達成するために必要な169のターゲットから構成される。「誰一人取り残さない」を中心概念とし、貧困に終止符を打ち、不平等をなくし、気候変動をはじめとする環境問題に対処する取り組みを進めることを求めている。

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 生活者1万人を対象とした「2022年度ESG/SDGsに関する意識調査」(企業広報戦略研究所のまとめ)によると、「SDGsという用語を知っているか」という設問に対し、「知っている」(「詳しく知っている」「聞いたことはある」の合計)と回答した人は91.3%と、ほとんどの生活者にSDGsが認知されている。内容についての理解も年々進み、「詳しく知っている」と回答した人は40.3%となっている。

 また、17目標について関心のある目標を尋ねると、2年連続で、1位が「すべての人に健康と福祉を」、2位が「貧困をなくそう」、3位が「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という順になっている。このようにSDGsは今や国民の間でも認知度が高まり、すでに多くの企業がいろいろな形で取り組みを進めている。

 一方で、企業が標榜するSDGs関連活動の中には、その本質とねらいを理解せず、表面的に自社の活動によってSDGsに取り組んでいる“ふり”をする、うわべだけのSDGs活動も見られる。このような活動は「SDGsウォッシュ」と呼ばれる。SDGsウォッシュを避け、その本質と本来のねらいを理解するためには、SDGsが国際的に議論され、合意されることとなった原点や源流をたどることが有効だ。

 SDGsの源流は、「国連環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」が1987年に発表した報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」と、1992年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」にさかのぼる。

 「我ら共有の未来」では、「持続可能な開発への移行における国家の行動を導くために、関連する法的原則を新しい憲章に統合し、拡張する必要がある」と提言している。この「新しい憲章」は「地球憲章」として、92年のリオデジャネイロでの地球サミットで採択すべく準備が進められた。しかし、政府間の交渉の過程で、最終的には「環境と開発に関するリオ宣言」という形になって採択されたのである。

 地球サミット事務局長であったモーリス・ストロング氏は、政府間交渉の成果である「環境と開発に関するリオ宣言」では飽き足らず、より高度な人類の規範となるべき内容を求め、サミット後に地球憲章制定運動を始めた。彼が旧ソ連の元大統領であったゴルバチョフ氏とともに、世界の有識者を糾合した「地球憲章委員会」を発足させ、広範な市民社会を巻き込む世界的なコンサルテーションを経て、法的原則だけでなく、人間や社会の倫理的原則も盛り込んだ「地球市民の憲章」として2000年に制定したものが「地球憲章(Earth Charter)」である。

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地球憲章日本委員会(広中和歌子代表)による新刊本(税込み1980円、三省堂書店/創英社)

 人間の活動が大きく地球を改変しているこの時代にあって、「地球憲章」はわかりやすい言葉で、人の行動原則と倫理を説く貴重な内容となっている。しかし、まだまだ日本では多くの人に知られていない。SDGsのゴールやターゲットは、もともとこの憲章の諸原則が原点となっているので、SDGsを正しく実践していくためにも改めてこの内容を学ぶことが大切だ。

 このたび日本を代表して「地球憲章委員会」委員として活躍され、「地球憲章」の普及に長らく尽力されてきた広中和歌子・元環境庁長官を中心に『SDGsの原点「地球憲章」を考える』(三省堂書店/創英社)が発刊された。「持続可能な未来に向けての価値と原則」との副題を持つ「地球憲章」は、歴史上の重大な転換点に立っている私たちが、改めて参照すべき貴重な内容となっている。

 私たちは、この憲章が訴える「未来に向かって前進するためには(…中略…)自然への愛、人権、経済的公正、平和の文化の上に築かれる持続可能な地球社会を生み出すことに、私たちはこぞって参加しなければならない」という言葉を、しっかりとかみしめるべきだろう。

 (京都大学名誉教授・日本GNH学会会長・公益財団法人 地球環境戦略研究機関〈IGES〉シニアフェロー 松下和夫)

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