時評

「30by30」成否のカギ握るOECMの課題

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OECMガイドラインの表紙=IUCN提供

 

 国際約束である「G7 2030年 自然協約」に従って、国土の陸と海の“30%”を“2030年”までに生物多様性の保護区とするという「30by30」。2022年4月にこのロードマップが生物多様性国家戦略関係省庁連絡会議で了承され、自然保護の大きなうねりが新たに生まれている。

 現在のところ、陸域20.5%、海域13.3%という、自然公園などの従来型保護区の大幅拡張には限界もある。それをクリアするカギがOECM(Other Effective area-based Conservation Measures:保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)なのである。先日、23年に100件以上のOECM登録をめざして始まった「自然共生サイト(仮称)」試行認定の審査会に参加した筆者には、意義を示すモニタリング内容の充実と、担い手のインセンティブの確保が課題だと思えた。果たして自然保護の“ゲームチェンジャー”となるか、正念場を迎えている。

 OECMは自然公園のような保護地ではなかった場所、例えば、民間が担ってきたサンクチュアリをはじめ、社寺林やボランティアの手入れなどで保全されている里地里山、企業の水源の森、大学演習林、都市緑地など、生物多様性保全を主目的としないところでも、実態として「その地域の生物多様性の保全とその恵みの継承に貢献している」と評価されたならば、自然共生サイト(仮称)として認定し、既存の保護区との重複を除いた分をOECMとして国際データベースWD―OECMに登録する流れが想定されている。

 つまり、これまで民間がボランタリーに担ってきた自然保護活動が国際的な“お墨付き”を得られるかもしれないとあって、9月にオンライン開催された「第1回OECMの設定・管理の推進に関する検討会」(事務局は環境省)では、オンラインシステムの限界近くの聴講者を集める盛況ぶりだった。生物多様性の保全や地域計画等に関わる関連学会、協会などでも認定の進め方や候補地などについて華々しく議論が進んでいるところだ。

 保護区を定めて地権者の権利制限をするだけでは自然は守れない。むしろ、人の適切な営みによって生物多様性が担保される。この里山的概念が国際的に認知されたのは、10年の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で愛知目標が合意されたときにさかのぼる。これが保護地の類型としてのOECMの定義と特定方法の決議に至ったのはCOP14(18年)だった。IUCN(国際自然保護連合)は19年にガイドラインを公表、環境省は20年12月から専門家による検討会を頻繁に開催し、日本の現状と課題に即した制度を検討してきたところである。

 認定のハードルは、高すぎると認定しなくても生物多様性とその恵みが継承されるまれな事例しか拾えないし、低すぎると頑張っているところに“冷や水”を浴びせて国際的な信用を落とすことにもなりかねない。保全上の意義を確保しつつ、担い手に対して有効な社会・経済的インセンティブを与えて「30by30」に弾みをつけることが肝要である。単に認定というだけでは、倫理観とボランティアに頼る自然保護から抜け出せないと思う。

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OECMに期待される京都市梅小路公園のビオトープ「いのちの森」のカワセミ親子=田端敬三氏提供

 

 (京都大学名誉教授・公益財団法人 京都市都市緑化協会理事長 森本幸裕)

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