時評

金毘羅さんの気候変動対策

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ため池に設置されたソーラーパネル=上空から、筆者撮影

 

香川県は「うどん県」を自称している。そして空海(弘法大師)さんの出身地としても知られている。空海は全国各地に足跡を残し、たくさんの土木事業を行った。雨量が少なく水源地に乏しい香川では、今でも多くのため池が農業や生活の基盤となっている。

なかでも満濃池は日本最大の灌漑(かんがい)用のため池で、空海が改修したことで知られている。高松空港に向かう空から眺めると、太陽の光を反射するため池が目にはいる。よく見ると、ため池の中にソーラーパネルが散見される。瀬戸内気候で太陽光に恵まれるこの地は太陽光発電に向いているのだ。今やため池は、水の安定供給とともにクリーンな電気の供給にも寄与していることになる。

香川(讃岐)といえば、こんぴらさん。今回はこんぴらさんの門前町、信仰と歌舞伎の町、琴平町を訪ね、その地球温暖化対策活動推進事業についてお話を伺った。

琴平町は1975年には人口が1万4千人を超えていたが、現在(2021年11月末)は8212人に減少している。だが、年間約230万人(2016年)の観光客を迎える四国有数の観光の町である。

町役場の住民福祉課の中村光博さんによると、2017年度に第2期琴平町地球温暖化対策実行計画(事務事業編)を策定したとのこと。行政(町役場)が率先して省エネ・地球温暖化対策に取り組み、13年度比で30年度に39.2%温室効果ガス削減目標を目指して取り組んだ結果、19年度末時点で、計画を大きく上回る44.1%の削減を達成することができたとのことだ。

町はまた、2019年から低速電動バスのグリーンスローモビリティー“琴平町コトコト感幸バス”の実証実験を開始するなど先進的な取り組みを進めている。

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琴平町コトコト感幸バス=香川県琴平町、筆者撮影

さらに、環境省からの補助金を活用して観光地であることを生かし、金刀比羅宮に接続する「一之橋公園」を会場とした「こんぴら朝市」で、観光客をもターゲットとして脱炭素型の新しいライフスタイルのPRイベントを企画した。このイベントは町の観光協会や商工会、そして「こんぴら朝市実行委員会」とも連携して21年10月に開催され、温暖化対策としての「COOL CHOICE(賢い選択)」の取り組みが発信された。朝市の会場への送迎には琴平町コトコト感幸バスも活用された。残念ながらコロナ禍の影響で観光客の参加は限られたものの、多くの町民が参加した。

このイベントと関連し、婦人会とともにエコクッキングや食品ロスの削減活動を啓発し、住宅設備大手LIXILの協力を得て省エネ住宅の良さ(断熱性、気密性、省エネ性)やリフォーム、ZEH(ゼロエネルギーハウス)などのPRも展開した。また、自転車での発電体験や、自動車メーカーの協力を得て電気自動車(EV)を展示。教育委員会と連携し、小学生を対象とした体験学習もあった。

琴平町では他市町村に先駆け、太陽光や蓄電池への独自の補助制度も設けている。将来的には軽自動車のEVへの補助制度の導入も検討しており、温暖化対策を目的として自動車メーカーと包括的な協定を結んでいる。また、若い世代の定住を促すため、40歳までを対象に新築住宅(太陽光・断熱などの装備)を購入した場合は100万円、住宅リフォーム(ペアガラス、断熱化など)には20万円の補助もしている。

伝統を誇る門前町の琴平町は、時代の変化を受け止め、知恵と工夫を重ねながら将来を見据えた気候変動対策にも挑戦している。もとより、気候変動対策には国レベルでの野心的な目標設定と効果のある政策の導入が求められる。そのうえで国が個々の自治体との連携を強め、地域での取り組みを後押ししていくことが肝要であることを今回、改めて痛感させられた。

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こんぴらさんの参道から琴平町を望む=筆者撮影

(京都大学名誉教授 松下和夫)

 

 

 

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