時評

建設発生土の真のアセスを 桁違いの大深度地下トンネルの影響

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重要伝統的建造物群保存地区「美山かやぶきの里」の防火放水訓練風景

 静岡県熱海市伊豆山の逢初川で2021年7月に発生した土石流。この大惨事の背景には上流の「盛り土」があったという。建設発生土の処分地だろうか。環境影響評価(アセス)において、発生土の「仮置き」から「最終処分」までを具体的に事前評価することが、こうした惨事を未然に防ぐ手立てとなる。

 掘削と盛り土のバランスが取れればいいのだが、建設副産物実態調査(国土交通省2012)によれば、土砂の利用量に対して発生量は全国平均で1.3倍。だから各地で盛り土が増えていく。閉鎖した鉱山や土砂採取地などが発生土指定処分地となるのは合理的だろう。処分地が発生土の近隣にあれば環境影響も避けられそうだ。だが、各地で余裕はなくなりつつある上に大量の運搬はダンプ公害をもたらす。

 条例や行政指導に従わない業者もいて、全国の処分地では過去に崩落事故が起きるなど「仮置き」と称して本来許可されないところに放置する例が後をたたないため、国交省も「建設発生土の取扱いに関わる実務担当者のための参考資料」(2017)を作成したところだ。

 だが、桁違いの大量の発生土で深刻な問題となっているのがリニア中央新幹線のトンネル工事だ。全長の約9割がトンネルという、東京―名古屋間のアセス評価書では、過去に例を見ない膨大な量のトンネル掘削発生土の最終処分地は、なんと示されていないのである。

 JR東海の担当者に聞いてみたら、それは自治体が進めることなのだという。最終処分地が決まらなくてもトンネルは掘り進めて、どこかに「仮置き」する。これが曲者だ。放置し続けるのは悪徳残土処理業者だけではない。

 百人一首にも詠まれた京都の小倉山。京都と亀岡の間の山体を穿(うが)つJR嵯峨野線のトンネル工事では、風致地区条例はおろか、古都保存法の「歴史的風土特別保存地区」という最も厳しい開発制限がかかった場所であるにもかかわらず、「仮置き」が「最終処分地」となってしまった。

 工期を短縮するために立て坑側面からも掘り進め、トンネルができたら亀岡側に搬出して河川改修事業に発生土を利用することで関係者が合意したはずだった。だが、いざトンネルができると工期が延びるなどの理由で搬出せず、発生土の山は緑化することでお茶を濁した。発生「土」というより「岩屑(いわくず)」の山が樹林になるのには数百年かかるだろう。事実、約半世紀経過してもいまだに緑化中で「峰のもみぢ葉」は戻ったとはとても言えない。

 さて、現在アセス手続き中の北陸新幹線の京都・大阪への延伸事業では、全長の約8割がトンネルだ。小倉山トンネルとは桁違いの膨大な量の発生土となる。また、ヒ素の流出が懸念される地質の地域もある。発生土の行方については、具体的なアセスによって、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された「美山かやぶきの里」もある京都丹波高原国定公園地域の自然環境や、「人と自然との触れ合い活動の場」への影響は「回避しがたい」という評価結果になるのではないかと思って注目しているところだ。

 事業ありきの結論を恐れて、事業段階のアセスの調査受け入れを拒否している地区もある。ならばもともと三つあった候補ルートのうち、最も費用便益比B/Cの良好な米原ルートも含めた戦略的アセスに立ち戻れないだろうか。

 (京都大学名誉教授 森本幸裕)

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