日本アルプス 四季を旅する

霧氷林の朝

 

 長野県松本市の上高地は北アルプスの山岳景勝地でリゾート地でもあり、夏季を中心に年間120万人もの観光客が訪れる人気の観光地だ。今年は140万人以上が訪れ、過去10年で最多となった。

 登山では、燕岳~大天井岳(おてんしょうだけ)~槍ヶ岳を経て上高地に下りてくる「表銀座ルート」の終着地であり、また穂高連峰など北アルプスの多くの山々の玄関口にもなっているため、年間の入山人口も多い。

 標高は1500mあり、大正池・明神池・田代湿原や岳沢(だけさわ)湿原と池や湿原も多く、春から夏にかけてはニリンソウのほか多種類の高山植物が花を咲かせる。シラカバやダケカンバ、カラマツなど紅葉する樹々の種類も多く、季節ごとに目を楽しませてくれる。植生や生態系は他にはないほど豊かな場所だ。

 ただ、冬季の上高地は閉山となるので入り口となる釜トンネルから徒歩で入るしかない。早朝の撮影を狙うには夜の入山となる。積雪の状況によってはアイゼンやスノーシューが必要だ。コース上には雪崩箇所があったり最低気温がマイナス20度を下回ることがあったりと、スノーハイクなのだが、コース環境は厳冬期のアルプスのような危険性を伴う。

 だが、この冬の閉ざされた時期の上高地は、特別な姿を見せてくれる。冷気と湿度によって一帯の樹々が白く霧氷林となり、水面には霜の花「フロストフラワー」が現れる。陽光と風によってはダイヤモンドダストやサンピラーなどの自然現象に出逢える。

 撮影ポイントとして有名な田代湿原が今回の朝の撮影の最終地点。朝の光が差し込んでくると全ての樹々が白く輝きはじめ、その輪郭を際立たせる。枝々から輝く氷の塊がパリパリと音を立てながら落ちてゆく。

 その日の目覚めを感じた。

 【撮影地】

 長野県松本市 上高地

 (大島隆義)

 

PAGE TOP