ご来光に染まる樹氷
長野県の中央アルプス千畳敷カールは、ロープウェーが通年営業していることにより、厳冬期でも比較的気軽に訪れることのできる場所だ。
比較的気軽に、とはいっても、12月下旬ともなれば一帯は積雪量2㍍以上の雪原となる。標高は2600㍍に達し森林限界の狭間でもあることから、ダケカンバの樹々以外ほとんどの植物は雪の下に隠れてしまう。落葉広葉樹であるダケカンバは、積雪や風の影響でねじ曲がった樹形も多く、点在していたりもする。立派なものはその姿だけを撮影しても絵になる。
千畳敷は東向きに位置するため朝日のロケーションが良いので、冬の厳しさと美しさが融合した樹氷のダケカンバと朝焼けに的を絞ることにした。その条件は、寒気が通り過ぎた翌朝を狙うこと。そしてそのタイミングがやってきた。
千畳敷にある通年営業の宿泊施設に泊まり、夜明けがはじまる頃からポイントを探す。明るくなるにつれ、樹氷化したダケカンバのその姿がわかった。南アルプスから昇る太陽がまぶしくも美しく、あたり一面を鮮やかに染めてゆく。光を受けたサンゴのようなかたちのダケカンバの枝々は、自ら輝いているように見えるほどだ。
最高の条件での一枚を、撮り収めることができた。
【撮影地】長野県 中央アルプス・宝剣岳 千畳敷カール
(大島隆義)
大島 隆義(おおしま たかよし)
1981年愛知県生まれ、在住。山岳風景写真家。日本各地の山岳地帯ならではの自然風景を中心に四季を通じて撮影。山の稜線の姿のみならずその場の情景や自然現象など、自然の美しさ厳しさを表現すべく日々山と自然に向き合い、作品を写真展、写真集、雑誌などに発表している。写真教室の講師も務め、写真の楽しさや技術などを伝えている。日本風景写真家協会 日本山岳写真協会 各会員、大島写真塾主宰。
◇新連載「日本アルプス 四季を旅する」は、山岳風景写真家の大島さんが、「日本の屋根」ともいわれる日本アルプスの、山ならではの造形美、そして険しく厳しい世界だけではない植生豊かな景観を紹介していきます。