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新国立、木製いす断念 自民要望「林業振興」 数十億円?費用ネック

 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の観客席約6万席の99%以上が、樹脂(プラスチック)製のいすになる見通しとなった。国内の林業振興のため自民党などが木製にするよう要望し、政府も検討していたが、コストがかさむため断念した。

 建設主体の日本スポーツ振興センター(JSC)によると、五輪開催時の6万579席のうち、最高級の「VVIP」(超重要人物)の268席にのみ、ひじ掛けと背面の一部に国産材を使うという。残りの一般席5万5730席や「VIP」1395席などはプラスチック製になる。屋根やひさしの裏側には多くの国産木材を使うが、いすへの導入はほぼなくなった。工事を受注した大成建設などの共同企業体(JV)が7月に発注済みだという。
 15年12月に総工費約1490億円の設計・施工案が決まった段階では、プラスチック製が想定されていた。「木製いす」案は、自民党が16年2月と5月に政府に要望。「『日本らしさ』をより強く感じさせる」「林業の成長産業化に貢献」などを理由に挙げた。木製にすると数十億円余計にかかる可能性があったが、当時の遠藤利明・五輪担当相は検討する考えを示していた。
 導入見送りについて内閣府の担当者は「維持コストもかなりかかることがわかり、難しいと判断した」と話す。
 「木の総合文化推進議員連盟」の事務局長、中山泰秀衆院議員(自民)は「非常に残念。木材利用は山を整え、災害防止にもつながる。引き続き、木製いすの導入を申し入れていく」と話す。
 林野庁によると、国土の3分の2を占める森林のうち、約4割の1千万ヘクタールが人工林。人手不足や木材価格の下落などで伐採が進まず、総需要の約7割を輸入材に頼っているのが現状だ。「老若男女に親しまれる競技場での国産材利用は(木材振興に)大きなインパクトがある。いすに限らず、少しでも多く使ってもらいたい」と同庁の担当者は言う。
 公共家具メーカー「コトブキシーティング」(東京都)などは15年、林野庁補助の家具コンペに屋外スタジアム用の木製いすを提案し、優良作品に選ばれた。同社幹部は「維持も考えると木製いすのコストはプラスチックの2倍ぐらいかかる」と認めつつ「高いチケットを買っても、非日常のぜいたくな体験を求める観客もいるのでは」と話す。
 国際的な森林認証を受けた面積が全国一の浜松市。天竜森林組合の和田重明組合長は「競技場でも様々な部分に木を使うということなので、いす以外で木材使用の機運が高まれば」と期待を寄せる。
 原田宗彦・早稲田大教授(スポーツマネジメント)は「観客はスポーツを見にくるので、木製にして劇的にリピート率が上がるかは疑問。林業振興のためなら木材PRイベントを催せばよく、コストのかかる木製いすの断念は妥当だ。特別観覧席をつくるとか、五輪後に赤字が出ないようにするアイデアを真剣に考えなければならない。集客方法の議論のきっかけにしたい」と話している。

 ■設置の施設「風合い、評判」
 木製いすを導入済みだったり、予定していたりするスタジアムもある。サッカーJ1のセレッソ大阪のホーム「キンチョウスタジアム」(大阪市)は15年度以降、大阪府などの補助金を受けて約1万8千席のうち約300席を木製のベンチやグループシートにした。担当者は「風合いやぬくもりがある。評判も良く、リピーターが期待できる」。柱など人が触れる部分には国産ヒノキを使った。
 19年ラグビーワールドカップに向けて岩手県釜石市に建設予定の「釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム」も、常設6千席のうち4990席に木を使う計画。市は「地元の木材を使い、自然をいかして林業の振興につなげたい」という。

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