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長崎の被爆クスノキ、命をつなぐ 南砺の井波彫刻師、オートバイに /富山県

 長崎市内にある山王神社に、72年前に被爆して黒こげになりながら命をつないでいる2本のクスノキがある。樹齢500~600年。傷み始めた部分を少しずつ切っては肥料を与え、生きながらえてきた。切られた枝や幹が、南砺市井波地区で活動する彫刻師・音琴冰春(ねごとすいしゅん)(本名・和彦)さん(57)の手で被爆の歴史を次代に伝えるオートバイに生まれ変わり、来月、長崎に戻る。

 音琴さんは長崎県大村市出身。被爆した叔父は耳がただれており、同級生には被爆2世が多い。長崎日大高デザイン美術科にいた頃、家の置き薬を替えに来た薬売りに彫刻の盛んな井波のことを聞いた。高校卒業後、井波へ。1982年に独立し、以来ずっと井波で活動してきた。
 昨年、音琴さんの工房に長崎市の造園業で、「樹木医」としても活動する海老沼正幸さん(68)がやって来た。樹木医の会合で富山を訪れ、井波彫刻総合会館(南砺市)に寄った後、たまたま近くにあった工房に立ち寄ったのだという。音琴さんも長崎出身と知って意気投合し、「まかせたいものがある」と海老沼さんが紹介したのが、被爆クスノキだった。
 海老沼さんは、2006年から被爆クスノキの弱った部分を少しずつ伐採するようになった。気づくと倉庫は枝や幹でいっぱいに。その枝や幹の活用を、音琴さんに頼んだ。音琴さんは快諾。自ら2トントラックを運転して長崎へ向かい、30個ほどの木材を積んで帰ってきた。
 木材の一つに、表面に3本のひびが入ったものがあった。「ひびが空を飛ぶ鳥のように見えた」。焼けて炭のようになった木材もあり、「何度でもよみがえる不死鳥」をコンセプトにした作品を思いつく。若い人にも親しんでもらおうと、形はオートバイにした。
 庄川の河川敷で、チェーンソーやノミなどを使って木材を加工。パーツをつなぎ合わせ、約3カ月で完成させた。
 全長約3メートル、重さ約150キロ。前部には不死鳥のモニュメントがあり、その後ろにある骸骨の目には「キノコ雲」が描かれている。ナンバープレートには「昭和20年8月9日 午前11時2分」と記した。
 海老沼さんは「残骸となっていた木に、新たな命を吹き込んでくれた」と喜ぶ。オートバイは10月、井波から長崎に移され、長崎市の平和公園前にある土産店「被爆者の店」に飾られる予定だ。「長崎出身の一人として、原爆の悲惨さや平和の尊さを訴える使命がある」と音琴さん。「チェーンソーを握れる限り、富山から原爆を伝える作品を作り続けたい」

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