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太陽光から水素、再生エネ宅配 富谷で実験、国内初の試み

 太陽光発電でつくる「水素エネルギー」を宅配する実証実験が、富谷市で今夏から3カ年計画で始まる。再生可能エネルギーは昼夜や気象条件で発電量が変わるうえ、電気自体もためにくい。そこで効率良く蓄えられる水素に変え、特殊な合金に吸収させて運ぶという。環境省によると国内初の取り組みだ。

 環境省が委託する「地域連携・低炭素水素技術実証事業」の一つで、水素製造を手がける日立製作所(本社・東京)と再エネ事業に実績がある丸紅(同)、宅配などを担うみやぎ生協、低炭素の街づくりをめざす富谷市がタッグを組んだ。
 水素自体は、二酸化炭素(CO2)を出さないエコなエネルギー。ただ、水を電気分解する際の燃料次第ではCO2を大量に排出する恐れもあった。今回は、同市のみやぎ生協物流センターに設置済みの太陽光発電施設(出力80キロワット)の電気を使うことで、課題をクリアした。
 出来た水素は、スポンジに水を吸わせるようにマンガンやニッケルなどで出来た「水素吸蔵合金」のカセットに注入。生協の通常の宅配ルートに乗せて一般家庭3軒と生協の店舗、小学校の児童クラブの計5カ所に配送する。今後新たに導入される燃料電池(発電装置)にカセットを取り付ければ、電気や温水の利用が可能になる。
 今月から準備を始め、実際に宅配が始まるのは2019年1月。その後1年をかけ、使った電気量やコストなどのデータを収集するという。数億円の事業費は全て環境省が賄う。
 水素での発電量は、それまでの工程にかかるエネルギーを差し引くと、当初の太陽光発電量の約半分だ。ただ、日立の試算では、一般家庭で全ての電気を「宅配水素」で賄えば、日中に自宅屋根の太陽光発電を使い、夜は大手電力会社の電気を使うより、一軒当たりのCO2排出量を年間0・8トン減らせるという。
 通常、水素を輸送するには液化や高圧ガス化が必要だが、新たなエネルギーを使うし危険も伴う。合金に吸収させれば常温常圧で取り扱え、カセットの再利用も可能だ。
 最も大きな課題は、20キロ以上ある合金をどう運ぶかだった。日立と丸紅で昨年4月以降、事業を進める地域を探していたところ、同市でみやぎ生協の宅配システムを使えば追加の輸送費なしで家庭に届けられることが分かったという。
 再生可能エネルギーの電気は発電時に使うのが最もエコで損失も少ないが、太陽光は昼間だけで風力も安定しない。ためにくい大量の電気も水素に変えれば、災害時も含めていつでもどこでも発電などに使えるメリットがある。
 日立の後藤田龍介・産業プロセス本部担当本部長は「家庭用の燃料電池の普及とともに、実証実験を通してさまざまな課題を克服し、30年までには実用化させたい」としている。

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