人類は、森の気温変化と季節の出現により、地上に降りた？

チンパンジーとボノボの観察を通して、森林内の気温変化と季節の出現が、地上で過ごす時間を増やす主な要因であることを京都大学霊長類研究所の竹元博幸研究員が発見した。気温の低い雨季はほとんど樹の上で生活しているのに対し、暑い乾季には地上で過ごす時間が大きく増えることが分かった。これにより、一年中温暖湿潤な熱帯雨林の樹上で生活していたヒトの祖先は、乾季の出現と長期化によって森林内での地上生活が促されたとの仮説を立てることが可能になった。初期人類がなぜ地上で暮らし始めたのか、新たな視点を示す成果だ。英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

ヒトの祖先が地上生活を始めた理由として、これまでおよそ900万年前以降の後期中新世に起こった乾燥化がアフリカの森林面積を減少させたことが挙げられてきた。こうしてできたサバンナに人類が進出して二足歩行が始まったとするサバンナ仮説は、ヒトが開放的な環境で地上生活を送るため、周囲を警戒しやすい二足歩行をし始めたといった考えに基づいている。つまりサバンナへの進出と同時に地上で生活し始めたとの考えが有力だった。

しかし、近年発見された初期のヒト化石はすべて熱帯林や樹が少しまばら森林という湿潤な環境で見つかっている。どの化石も直立二足歩行していた形跡が見られ、部分的には地上生活をしていたと考えられることから、樹から降り直立二足歩行を始めてもなお森林の外には出ていなかったと考えられるようになっている。しかし、なぜ森林生活で地上に降りる必要があったのか、その理由は不明なままだった。

この研究では、季節変化の大きい森林に住むニシアフリカチンパンジーと、季節変化の少ない中央アフリカに住むボノボの地上利用時間を、森林内の気象および食物量の季節変化と照らし合わせた。両種とも、気温の高い日には一日の半分以上地上にいるのに、気温の低い日にはほとんど樹上で過ごし地上に降りてこなかった。寒い雨季には暖かい森林の上部（林冠部）、暑い乾季には涼しい地上で過ごして体温調節のエネルギーを節約していると考えられた。ボノボの住む森は気温の季節差があまりないため、季節ごとの平均を取ると、地上利用時間は少ないままで変化しない。つまり、森林内気温の季節変化が地上利用時間を増やす主な要因となっていることが分かった。