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「夢の新素材」CNF生産設備、富士に 森林資源活用、新産業成長に期待

 木を原料としながら強度は鋼鉄の5倍。夢の新素材といわれる「セルロースナノファイバー(CNF)」を使った強化樹脂の実証生産設備(試験用工場)が先月、日本製紙(東京都千代田区)の富士工場吉永(富士市比奈)に完成し、試運転を始めた。CNFの生産設備は県内では初という。豊富な森林資源を持つ県、富士市ともに、新産業の成長に大きな期待を寄せている。

 高く伸びた幹を支える樹木の植物繊維は、建造物の鉄筋のような丈夫な構造をしているという。植物繊維の主成分セルロースを解きほぐしたCNFは、1本の幅が3~4ナノメートル(ナノは10億分の1)と髪の毛の1万分の1程度。軽量で強く、熱による変形も少ないのが特徴。国内の豊富な森林資源の活用につながることも、素材の強みだ。
 CNFには様々な用途があるが、約3億円をかけて建設した富士市の設備では樹脂(プラスチック)に混ぜて強化樹脂を生産する。軽量化で燃費が向上する自動車部材などに最も用途の伸びが見込まれる。経済産業省の委託調査では、自動車用の潜在需要は2030年には最大6千億円と推計されている。同社では、自動車や電気など他企業での応用研究用にもサンプルを販売する方針で、今年度末までに年間約10トンの生産態勢を整える予定という。
 設備は、すでに生産を止めている製紙工場の建屋の一角に造られた。「ペーパーレス」化で印刷用や新聞用紙の需要が減る中で、同社の製紙の生産規模は最盛期の数分の1まで減っている。製紙原料として育てた広大な社有林を保有しており、その資源を生かせるCNFは将来の中核事業に育つ可能性もある。実証生産の責任者になる河崎雅行CNF研究所長(56)は「研究の主眼は生産コストをいかに下げるかや、強度や成形性(加工のしやすさ)を向上させること」と話す。
 多くの製紙工場を抱える富士市もCNF産業の成長に期待する。16年度から市内の企業と研究機関の共同研究やCNFのサンプル購入に補助金を出す「実用化推進事業」を開始。事業拡大する企業に固定資産税・都市計画税相当額を返却する「企業立地促進奨励金」の新制度では、通常は3年間の優遇措置をCNF製造では特例で5年間とした。日本製紙も対象になる見込みだ。

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