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つる植物は「味覚」を使って同種への巻きつきを避ける!

東京大学大学院農学生命科学研究科の深野祐也助教は、つる植物のヤブガラシ(ブドウ科)の巻きひげが、接触によって同種の葉を識別し、巻きつきを避ける能力を持っていることを発見した。その識別に関与する物質は、ヤブガラシの葉中に高濃度に含まれるシュウ酸化合物であることも特定した。

 

巻きひげの素早い運動はダーウィンの時代から世界中で研究されてきた。つる植物は、自らだけでは高く伸びることができず、安定した物体に巻き付いて垂直方向に登っていく必要がある。高密度で繁茂することの多いヤブガラシにとって、同種を適切に避ける能力は重要だが、その仕組みははっきりしていなかった。今後、こうした化学識別のメカニズムなどを解明していけば、つる植物の巻きつき行動を制御できる可能性が生まれた。

 

深野助教は、ヤブガラシの巻きひげがどうやって同種の葉を避けているかの実験を行う中で、偶然にもカタバミの葉に巻き付かないことを発見した。カタバミはシュウ酸を多く含む植物として知られており、ヤブガラシも葉に多量のシュウ酸化合物を含むことから、ヤブガラシの巻きひげが識別・忌避している物質は、シュウ酸化合物であるとみて研究を進めた。そして、ホウレンソウやギシギシなど、シュウ酸を多く含むことが知られているさまざまな種類の植物への巻き付きを調べるとともに、その葉に含まれるシュウ酸の量を定量化したところ、それぞれの種の葉への巻きつきとそれらの葉に含まれるシュウ酸量には負の相関があることが判明。ヤブガラシはシュウ酸の多い植物には巻きつきにくく、シュウ酸の少ない植物には巻きつきやすいことを解明した。

 

シュウ酸化合物そのものが、巻きつきを忌避させるのかどうかを確認するために、シュウ酸化合物をプラスチックの棒にコーディングし、その棒に対するヤブガラシの巻きつきも調べた。すると、ヤブガラシはシュウ酸化合物をコーティングした棒には、他の試薬をコーティングした場合よりも巻き付かなかった。シュウ酸化合物は非揮発性の物質であるため、これはヤブガラシの巻きひげは揮発した物質を識別する「嗅覚」ではなく、接触による化学認識つまり人間の舌における「味覚」と似たような識別機構を持っていることを意味する。このため、つる植物の巻きひげは物体に素早く巻き付くための運動器官であると同時に、同種の葉という巻き付き相手として不適当な物体を避けるための化学センサーの役割も果たしていることが分かった。

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