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「暑さ対策官」世界各地で任命進む エアコン導入、都市の緑化に汗

 米南部フロリダ州マイアミにある住宅街の公園。5月下旬の朝、すでに気温は30度近く、強い日差しが降り注いでいた。地元に拠点のある海運会社の社員らが汗をかきながら、高さ2メートルほどの樹木を植えていく。

 都市部に緑を増やすための慈善活動で、地元のマイアミ・デイド郡と連携して進めるプロジェクトだ。

 参加者たちに声をかけたのは郡で働くジェーン・ギルバートさん(60)。世界で初めて「暑さ対策官(チーフ・ヒート・オフィサー)」という役職に就いた人物だ。

 「私たちはみんな(マイアミの)暑さが好きだが、ますます暑くなっている。気候変動に加え、道路がアスファルトで覆われ、緑が減り、『ヒートアイランド』になっていることもある」

 暑さ対策官は、気候変動や熱中症への対策、ヒートアイランド現象を食い止める役割を担う公務員だ。

 温暖な気候で知られるマイアミ・デイド郡。1960年代は最高気温が32・2度を超える日は年間約85日だったのに、最近は約133日になっている。人口約260万人の郡内では年平均34人が暑さに関連して亡くなっているという。

 そこで郡は2021年、ギルバートさんを暑さ対策官に任命。昨年「猛暑対策計画」を発表した。

 熱中症の危険性などを人々に伝えたり、低所得者が暑さを避けられるようにエアコンの導入を補助したり、図書館などの公共施設を避暑地として利用できるようにしたりする施策を行っている。

 都市の緑化を進めるのもその一環だ。

 ギルバートさんは「マイアミはハリケーンや海面上昇のリスクがある都市として知られているが、特に低所得者の人たちが直面しているのは酷暑だ」と語る。

 大学で環境科学を学んだギルバートさんは、コンサルティング会社などで働いた後、マイアミ市で気候変動対策などを担当する役職に就いた。

 そこで低所得の人たちと話をするなかで、暑さにもかかわらず、エアコンがない環境で過ごさないといけないことが大きな懸念になっていることに気付いたという。

 「すべての都市に暑さ対策官が必要というわけではないが、暑さ対策は総合的に考える必要がある。私の役割は、景観規制や都市計画、建築規制、公園計画、緊急事態管理、医療関係者との連携、公営住宅などを横断的に考えること。そのような立場から考えられる人を置くことが大切だと思う」と意義を強調する。

 ギルバートさんのような暑さ対策官は現在、チリのサンティアゴやギリシャのアテネ、オーストラリアのメルボルン、バングラデシュのダッカなど世界各地にいる。

 地元の自治体が選ぶが、ロックフェラー財団などの支援で災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性の解消に取り組むNPO「アルシュト―ロック」が、初期の資金、技術的、科学的な助言をしている。

 世界保健機関(WHO)によると、1998~2017年には熱波で16万6千人以上が亡くなった。今後さらにその数は増えていくとみられている。

 英エクセター大学などのチームの分析では、現在は約6千万人が平均気温29度以上で熱中症などを引き起こす危険な暑さにさらされているが、世界の平均気温が2・7度上昇すると、今世紀末の世界人口の5人に1人にあたる約20億人に増える。

 2019年に国際科学雑誌「PLOS ONE」で発表された論文によると、2050年には、世界の520の主要都市のうち22%が現在経験していない気候条件を経験することになる可能性が高い。

 最も気温が高い月の予測では、シアトルは6・1度上昇して現在のサンフランシスコに近く、ロンドンは5・9度で現在のバルセロナほどになる。東京は1・9度の上昇が見込まれる。

 「アルシュト―ロック」のディレクターで、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」の副会長のキャシー・ボーマン・マクラウド氏は「猛暑は世界的な問題だが、地域ごとに危険を回避するためにとるべき方法がある。だからこそ、この脅威に対する都市の対応を調整し、率いる人の存在は重要だ」と指摘する。(マイアミ=合田禄)

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