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僧侶、蓮まるごと図鑑に 生蓮寺の高畑さん、データ収集・撮影 五條 /奈良県

 泥の中から生まれ、清らかな花を咲かせる蓮(はす)は「極楽浄土に咲く花」として寺院でよく栽培されている。五條市にある生蓮寺(しょうれんじ)の僧・高畑公紀(きみのり)さん(41)が、そんな蓮を丸ごと楽しむ図鑑を出版した。京都大学大学院で生命科学の博士号を取得した異色の経歴を生かし、蓮を通じたまちおこしを目指している。

 「愛らしい花が一気に咲く様子は、たくさんの子猫がじゃれて遊んでいるよう」「グラマラスな花を咲かせます。(中略)下のレンコンもナイスバディです」
 紅白や黄色の40品種の写真に添えた解説から、蓮への愛情とその魅力を伝えようとする熱意が伝わる。高畑さんは「ただただ、きれいだから知ってほしいというだけですよ」と笑う。
 生蓮寺に生まれ育った。子どもの頃から生き物が好きで、中高生の頃、裏山から庭にわき水を引いてホタルを育てたこともある。筑波大学に進んで植物を研究し、京都大学の大学院や研究所で植物版のiPS細胞の研究に没頭した。
 就職先がなく、研究者の道を断念した後は、起業して京都や大阪でゲストハウスを経営。学生時代に僧侶の資格はとっており、週末は寺に戻り、住職の仕事などを手伝ってきた。
 寺名に「蓮」の字があるのに境内に蓮の花がないのが寂しいと思い、10年前から育て始めた。蓮は5月ごろから咲き始め、多くが8月初旬には枯れる。「お盆に来る大勢の人にも、この美しさを見てもらえる方法はないだろうか」。その思いが研究者魂に火を付けた。
 4年前から本格的にデータを集め、遅咲き品種のかけ合わせに挑戦。300鉢まで増やした蓮は、今では9月のお彼岸の時期まで花が見られるようになった。
 昨年5月に帰郷し、僧侶の仕事に専念している。蓮の本を出すため写真教室に通い、昨夏は1万8千枚以上撮影した。
 図鑑は各品種について、つぼみや満開の時期などの写真を数枚ずつ載せ、開花時期や育て方、生態を解説。新しい品種の生み出し方、レンコンのレシピ、花から香水を作る方法なども説明し、多様な切り口で蓮の魅力を紹介している。
 花や葉、実の芯はそれぞれ風味の違うお茶になる。蓮の葉ずしも研究中だ。数年前から希望者に蓮の種を送る活動を始めた。これまで全国の約1500人に届けた。新しく取れた種を返送してもらい、蓮を通じた交流を深めている。
 高畑さんは「休耕田を生かして蓮を育てれば地域おこしにもなる。蓮の魅力をさらに追求していきたい」と意気込んでいる。
 「見る、育てる、味わう 五感で楽しむ蓮図鑑」(淡交社、1800円+税)。問い合わせは淡交社(075・432・5151)。

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