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害虫の殺虫剤抵抗性が共生細菌を介して急発達

わずか数回殺虫剤を使用しただけで土壌中の殺虫剤分解菌が増殖し、これを害虫であるホソヘリカメムシが共生細菌として体内に取り込むことで、従来考えられていたよりも急速に害虫の殺虫剤抵抗性が発達することを、産業技術総合研究所などの研究グループが明らかにした。これまでに産総研ではホソヘリカメムシが殺虫剤を分解できる土壌細菌に感染すると、殺虫剤抵抗性を獲得することを発見していた。今回、土壌への殺虫剤散布試験と害虫カメムシの飼育実験を組み合わせた複合解析によって、殺虫剤をどれくらい使用すると土壌中に殺虫剤分解菌が増殖し、どれくらいの殺虫剤散布の頻度で害虫カメムシが土壌中の分解菌を体内に取り込んで殺虫剤抵抗性になるのかを初めて実験的に示すことに成功した。

 

ダイズを食害する農業害虫のホソヘリカメムシは、幼虫時に土壌からバークホルデリアという共生細菌を獲得する。共生細菌を持つほとんどの昆虫で、共生細菌が母から子へと直接伝えられるのとは大きく異なる。土壌に普遍的に生息するバークホルデリアの中には、有機リン系殺虫剤の一つであるフェニトロチオン(MEP)を分解して炭素源として利用するものがいることが知られており、MEPの連続散布により土壌中のバークホルデリアが増殖することは古くから報告されている。

 

殺虫剤の散布頻度とホソヘリカメムシへの殺虫剤分解菌の感染頻度との関係性を明らかにするため、植物苗用のポットに土壌を詰め、散布前の土壌中と、農薬使用推奨範囲内の量のMEPを1週間に1回の頻度で2~6回散布した土壌中とのMEP分解菌の密度と、土壌中の細菌の群集構造(複数の細菌種が混在する集団の中の、細菌の種類と比率)を解析した。さらに、これらの土壌を用いてホソヘリカメムシの幼虫を飼育し、MEP分解菌への感染率や腸内細菌の群集構造を調べた。散布前の土壌でホソヘリカメムシを育てた場合、MEP分解菌に感染した個体は検出されなかったが、MEPを2回以上散布した土壌で育てた個体群からは感染個体が検出された。散布前の土壌ではMEP分解菌は検出されず、殺虫剤の散布を重ねるに従って、土壌中のMEP分解菌密度が増えており、分解菌密度が増えると、ホソヘリカメムシのMEP分解菌感染率も上昇し、6回散布した土壌では92 %の個体がMEP分解菌に感染していた。

 

特に、土壌に2回散布しただけでMEP分解菌に感染したホソヘリカメムシが現れた点は注目される。このときの土壌中のバークホルデリアの割合は細菌群集全体のわずか0.04 %にもかかわらず、MEP分解菌の感染は非常に高い効率で起きていた。従来、害虫の殺虫剤抵抗性は、徐々に集団中の抵抗性個体数が増加して、何世代もかけてゆっくりと発達すると考えられてきたが、今回、害虫の殺虫剤抵抗性が土壌中の共生細菌を介して急速に発達することを初めて示した。これまで考えられていたよりもはるかに速く、集団レベルで殺虫剤抵抗性が顕在化してしまう危険性があることを示唆する。

 

また、数十年間に渡り、年に数回の頻度で継続的にMEPが利用されてきた南西諸島のサトウキビ畑において、土壌とカンシャコバネナガカメムシ(サトウキビの重要害虫)の調査を行ったところ、全体的な傾向としては今回の室内実験と同様に、土壌中の殺虫剤分解菌の密度が高い畑ほど、殺虫剤分解菌に感染した害虫が多いことが示された。殺虫剤の散布頻度がそれほど高くなく、他の条件にも結果が左右されうる野外環境でも室内実験と同様の傾向が見られたことから、野外環境でもMEPを高い頻度で連続散布して、土壌中の殺虫剤分解菌の密度が増えれば、共生細菌による害虫の急速な殺虫剤抵抗性化が起こりうると考えられた。

 

これらの結果は、殺虫剤の過剰散布が「共生細菌による害虫の殺虫剤抵抗性化」を大きく促進する危険性を示す。一般的に殺虫剤は、主に農作物への残留や周辺環境への汚染を考慮してその使用が制限されているが、土壌中の細菌群集への影響や、散布による害虫の急速な殺虫剤抵抗性の獲得も今後は考慮することが望ましいと言える。

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