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多様な自然「世界遺産に」 奄美・徳之島・沖縄北部・西表島 11日から現地調査

 海によって隔離された島々が希少な固有種や独自の生態系をはぐくんでいるとして、世界自然遺産の候補地になった「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」。来年夏の登録に向け、審査機関の国際自然保護連合(IUCN)による現地調査が11日から始まる。「国内最後の自然遺産」と言われるこれらの地域の貴重な自然を、どう守りながら活用していくのかが、課題となっている。

 月夜の林道脇で黒い影が動いた。短い耳と足にずんぐりとした体。世界で奄美大島と徳之島だけにすむ国の特別天然記念物アマミノクロウサギだ。
 今夏、奄美大島の森に入ると世界的な希少種に次々と出あえた。
 草むらで何度も跳ねたのはアマミトゲネズミ。性別を決定づけるY染色体がないのに雌雄が存在する不思議な哺乳類だ。樹上ではケナガネズミが木の実を探していた。朝には野鳥のアカヒゲやオオトラツグミの美声が聞こえ、ルリカケスやカラスバトが羽ばたく姿もみられた。いずれも国の天然記念物だ。
 木の洞では黄緑の体に金や黒の斑点模様を持ち「日本一美しい」といわれるアマミイシカワガエルが休んでいた。川をのぞくと、リュウキュウアユが石のこけをはんでいた。
 絶滅が心配される植物も多い。渓流沿いではアマミクサアジサイが、薄紅色の小さな花を咲かせていた。春のアマミエビネから冬のコゴメキノエランまで一年中、珍しい花が楽しめる。
 島の自然を35年以上撮り続ける写真家の常田守さん(64)は「驚くほど多様な生き物がいる。世界的にも『オンリーワン』の自然がある」と話す。

 ■観光の影響懸念
 奄美以外の3地域も、多様な生物が息づく。日本政府によると、日本の0・4%の面積に、種の数で国内の維管束植物の26%、陸生哺乳類の20%、鳥類の62%がすむ。島ごとに進化したトゲネズミ類やヤンバルクイナなど固有種も豊富だ。
 世界自然保護基金(WWF)ジャパンの権田雅之さんは「生物の進化、歴史を知る上で、箱船のような貴重な場所だ」と語る。
 世界の同程度の緯度の亜熱帯地域には乾燥した草原やサバンナが多いが、候補地は黒潮などの影響で年2千ミリ超の雨が降る。海岸にはマングローブ、山地にはシイやカシの仲間からなる照葉樹の多雨林が広がる。
 アジア大陸や日本と陸続きだった時代もある。過去に渡ってきた生きものは、島が大陸から切り離され、島同士も分断される中で、独自の進化を続けてきた。
 ただ、こうした自然は盤石ではない。自然遺産になれば、観光客の増加が見込まれる。候補地と人里が近接しており、動植物に悪影響が及ぶ恐れがある。
 1993年に世界自然遺産に登録された屋久島では、急増した観光客らが林床を踏み荒らし、ウミガメの産卵などへの悪影響が心配された。今回の候補地でもレンタカーなどで、アマミノクロウサギやイリオモテヤマネコなどの交通事故の増加が心配されている。外来種の侵入や希少植物盗掘の対策も課題だ。
 田中俊徳・東京大特任助教(環境政策・ガバナンス論)は「車両規制やガイドツアーの義務付けなど、対策の土台となる科学的データが不足している。行政は地元住民や研究者、NPOと協力し、早急に具体化していくべきだ」と話す。

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