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利根川中流域、避難で連携 自治体、水害に備え /茨城県

 利根川中流域で、自治体の垣根を越えて水害に備える広域避難の計画づくりが進んでいる。境町は隣の坂東市内の避難所に町民を避難させる覚書を締結。利根川はんらんに備えて、茨城と埼玉、群馬の3県の5市町は先月から、地域住民に共通の基準で避難をうながす仕組みづくりも始めた。

 ■浸水時、隣の市に拠点
 関東・東北豪雨に襲われた2年前の9月9日、境町の大塚誠さん(54)は夜更けまで、経営する喫茶店で妻勝美さん(53)らと過ごした。町には9日から10日にかけ、9月の平年一月分の倍近い337ミリの雨が降った。
 店の玄関前の道路には高さ60センチほどの水があふれ、自宅に帰れない。10日午前2時ごろ、玄関前から救助に来た船で避難所の公民館へ運ばれた。「こんなことはこりごり」とうんざりした様子で振り返る。
 低湿地の埋め立て地があり、中心部はすりばちの底地で水がたまりやすい。町内の1割が浸水し、道路34カ所が冠水。浸水が最長約10日間続いた。計493棟で床上・床下浸水が起き、1人が死亡した。
 「千年に一度」レベルの豪雨が起きれば、2年前には免れた利根川はんらんが現実味を帯びる。今年7月に見直された国の浸水想定では町内の大半が冠水、災害対策本部となる町役場も約7メートルまで水につかる。
 町は昨年6月、隣の坂東市と「広域避難に関する覚書」を締結した。最悪の事態の場合、浸水域外にある市の避難所の坂東総合高校に町民を最長1カ月程度、避難させ、災害対策本部を移す。古河市内の県立総和工業高校も避難所として活用できるよう、同市と覚書を結ぶ予定だ。
 今年度中には役場の隣に、高さ14・5メートルの水害避難タワーが完成する。逃げ遅れた住民の避難場所だ。橋本正裕町長は「坂東総合と総和工とタワー、非常用電源が水没しない三つの避難拠点を設け、備えを万全にする」と話している。

 ■合同で情報発信探る
 利根川中流域では、県境を超えた自治体間連携の「実験」も進む。
 8月22日、境町と古河市、坂東市、埼玉県加須市、群馬県板倉町による「広域避難協議会」が発足した。5市町の利根川左岸地域は、堤防や台地に囲まれた地形。集中豪雨が降ると、長期間浸水する危険性がある。川のはんらんの危険性が高まると、避難情報を5市町が合同発表し、地域の住民に避難を呼びかけることを目指す。協議会には5市町の周辺にある浸水の可能性が低い自治体も参加。広域避難先としての受け入れ可能性も議論する。
 現状では災害対策基本法に基づき、市町村ごとに住民に避難指示や避難勧告を出している。協議会の試みが実現し、複数の自治体が境を超え、共通の基準で地域住民に避難をうながす仕組みが整えば、全国初の事例となる。
 旗振り役の片田敏孝・東京大学大学院特任教授は、内閣府・中央防災会議の委員。近年、頻発する集中豪雨の危険性を踏まえ、自治体が連携して早めに広範囲の住民を逃がす必要性を訴える。「大規模なはんらんが生じれば、みなさんは運命共同体。どうやって助け合うか考えて欲しい。ここで模範を示したい」と、この試みの意義を説いた。

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