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三陸の藻場、再生へ提言 海洋生態学者・小松輝久さん 65歳

 6年前の大津波で傷ついた三陸沿岸。横浜商科大教授の小松輝久さん(65)は豊かな海を復活させるための提案を報告書にまとめ、3月、環境省に提出した。人命を守るための巨大防潮堤が海と陸とのつながりを断ち、基幹産業である漁業を支える環境を壊してしまうと憂える。
 調査場所のひとつは、岩手県宮古市の高浜地区だ。岸から80メートルの範囲に広がっていた海中の藻場が、高さ10メートルの防潮堤建設後に激減。2010年9月に撮影された衛星写真では469平方メートルの藻場が確認できたが、建設後の16年2月には58平方メートルしか残っていなかった。
 藻場の54%が防潮堤の下敷きになったほか、水の濁りなど工事の影響で32%が消えたとみられる。防潮堤で波が跳ね返って流れが速くなり、藻の再生を妨げている可能性もあるという。
 一方で同県山田町の浦の浜地区では、津波の後に6割以上減った藻場が、16年2月には津波前と同じ面積に戻っていた。建設された防潮堤が高さ2.7メートルと小規模だったため、再生を阻まなかったらしい。「巨大防潮堤が沿岸生態系に及ぼす影響は大きい」と結論づけた。
 津波が豊かな環境を生み出す場合もあるとも気づいた。宮城県南三陸町の志津川湾では、防潮堤が壊れた後に干潟ができてアサリが大発生、地元の人が潮干狩りをした。復旧工事の後に、干潟は消えたという。
 こう思うようになった。津波後に湿地や干潟ができ、ゆっくりと陸地に戻っていく。三陸では太古から、そんな変化が数十年から100年おきに繰り返されていたのではないか――。
 藻場や干潟、湿地は、魚の隠れ場になる植物やプランクトンを育む「ブルーインフラ」。津波は今後も各地で起き、温暖化による水位の上昇によっても日本の海岸線は浸食されると思う。「巨費をかけた防潮堤で海岸線を元に戻すことにこだわるより、変化を受け入れ、陸と海とが接する場所にできる豊かな環境に目を向けるべきです」
 大阪出身。幼いころの遊び場だった大阪湾の海水浴場が埋め立てられ、水が汚れていくのを目の当たりにして、環境科学の道に進んだ。27年勤めた東京大を定年退職し、今年4月から現職。週3コマ教えながら、三陸の海に通い続ける。

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