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森の復元を樹木葬で 墓標として植樹、50年先を描く

 千葉県の房総丘陵にある土砂採取跡地で、在来種による樹木葬の墓地を造り、50年かけて森に戻そうという活動が始まっている。環境政策の提案やビオトープの保全に取り組む日本生態系協会が、墓地運営で資金を得ながら、長期間かかる森の復元に挑む新しい形のナショナルトラスト活動だ。
 千葉県長南町の山間にある「森の墓苑(ぼえん)」を6月上旬に訪れると、草原のなかに在来種のヤマザクラやコナラ、ムラサキシキブなどの若木が点々と立っていた。若木は周辺の森から採ってきた種から数年かけて育てたもので、墓石の代わりだ。多くは契約時に植樹される。区画は再販売せずに、30年間は手入れを続け、50年後には森に戻るという構想だ。故人の骨は根元に埋められる。
 埼玉県の会社員女性(59)は森の再生という構想に共感して現地説明会に参加した。離婚した夫とは別々の墓に入るが、それぞれの墓の管理で子どもたちに負担をかけたくないとの思いもあり、樹木葬を検討した。「お母さんは森になったんだと時折、思い出してくれるだけでいい」。協会によると、「森の墓苑」は生前契約も含め、すでに28件の申し込みがあるという。
 この地域は都心から近く、建設現場の基礎部分などに使う土砂の採取場として利用されてきた。協会によると、「森の墓苑」も山の尾根を切り開いた土砂採取跡地にあり、業者の倒産後に放置されていたという。近くには、同じように木が失われた土砂採取跡地があった。
 あたりにはゲンジボタルやモリアオガエルのほか、多くの種類の野鳥も生息している。そこで、ナショナルトラスト活動の一つとして、協会が周辺の森を含めて約3万6千平方メートルを買い取り、うち3500平方メートルを墓地区画として利用しながら森を再生することにしたという。
 協会の服部仁美・主任研究員は「自然の再生には、長い時間と人手、資金がかかる。将来にわたり生態系を守るための方法として墓地運営と組み合わせることを選んだ」と話す。
 協会がこの事業に乗り出したのは、森の保全だけではなく、無秩序な墓地開発に歯止めをかけたいという思いもある。
 全日本墓園協会などでつくる厚生労働省研究班の2015年の報告書によると、人口減少が始まっている日本でも、墓の需要は30年ごろまでは大きくは減らないと推計、こうした傾向は特に都市部で顕著だという。
 樹木葬は各地であるが、埋葬・運営方法は墓地ごとに違う。服部さんは「『森の墓苑』の森を再生するという構想が、環境問題への貢献を考えている人が納得できる墓として受け皿になれば」と話している。

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